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岡山地方裁判所 昭和41年(わ)818号 判決 1967年3月10日

被告人 関藤信行

主文

被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。

本件公訴事実中有印公文書偽造、同行使の点は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで昭和四一年六月一六日午後二時二〇分ごろ、井原市井原の岡山石油株式会社井原営業所前路上において、軽四輪自動車(八岡も五〇二五号)を運転したものである。なお、被告人は少年である。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。

(有印公文書偽造、同行使の訴因に対する判断)

本件公訴事実中有印公文書偽造、同行使の訴因は、「被告人は昭和四一年五月二〇日ごろ、笠岡市笠岡西本町五、五七二の二番地において、行使の目的をもつてほしいままに、万年筆等を使用してかねて実兄関藤秀行が岡山県公安委員会より交付を受けていた第一種原動機付自転車運転免許証の氏名欄の「関藤秀行」を「関藤信行」に、生年月日欄の[昭和20年4月5日生」を「昭和23年1月25日生」に、交付年月日欄の「昭和33年10月17日」を「昭和41年5月30日」に、有効期限欄の「昭和41年10月16日」を「昭和43年5月29日」に、免許の種類欄の「第壱種原付免許」を「第壱種普通免許」に免許年月日欄の「35.10.18」を「41.5.30」に書き換えたうえ、写真欄の右秀行の写真を剥離して同写真欄に自己の写真を貼付し、あたかも自己が交付を受けた運転免許証のような形式を整えて右公安委員会が作成すべき自動車運転免許証一通の偽造を遂げたうえ、同年六月一六日午後二時三〇分ごろ、井原市井原所在岡山石油株式会社井原営業所前路上において、交通違反取締中の警察官浅野好夫から運転免許証の提示を求められた際、右偽造にかかる運転免許証を真正に成立したもののように装つて同人に対し提示して行使した。」というのであつて、被告人の当公判廷における供述、被告人の司法警察員に対する供述調書、関藤秀行の運転者原票の謄本および押収してある自動車運転免許証(昭和四二年押第二一号)によると、以上の外形的事実はいずれも認めることができるのであるが、一般に文書偽造罪が成立するためには、偽造された文書が一般人をして一見真正な文書と誤信させるような外観を具えていることが必要であるところ、これを本件についてみるに、被告人が施した偽造の手段方法はいかにも幼稚拙劣なものであつて、押収の右免許証によれば、例えば、交付年月日欄と有効期限欄に書き入れた各数字のうち、あるものはマジツクインクを使用しているため、非常に肉太で黒々としているのに対し、他の数字は万年筆で書かれているため、その外観の不釣合ははなはだしく、また、氏名欄の「信」、生年月日欄の「23」、「1」、免許年月日欄の「41.5.30」などの各文字は、ありあわせのメモ用紙を小さく切つて貼り付けた上に書き込まれたもので、しかもその貼付した紙片の周囲は黒のマジツクインクで濃く枠付されており、他にもそのような箇所が散見される外、写真欄に至つては、はぎとつた兄秀行の写真のうち岡山県公安委員会のプレス印が顕出している部分を切り取つて、被告人の写真の上に貼り、しかもその部分を黒くぬり消してある始末で、これらがいずれも一見して明白であるところからすると、本件の運転免許証が一般人をして岡山県公安委員会が被告人に対し正当に発行したものであると誤信させるほどの外観を具えているとは到底認め難く、結局被告人の右所為は公文書偽造罪にも同行使罪にも該当しないというべきであるから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 牛尾守三 谷口貞 小長光馨一)

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